託す人、託される人

いつも髪をカットしてもらってる高橋さんという女性美容師さんがいます。

彼女から聞いた話です。
彼女には70代の女性のお客がいました。
いつも高橋さん指名でやってきます。
今年の4月に女性が来た時、えらくやつれて、疲れているように見えたので
「ずいぶんお疲れですね・・・」
と聞くと
『私ね、ガンなのよ、あと2ヶ月なんだって・・・』
「え?!・・・」
『そうなのよ・・・私もね・・・自分があと2ヶ月で死ぬなんて思えないのよ・・・』
それから2ヶ月が過ぎ、6月になっても女性は来ませんでした。
「もしかして・・・」
と考えていたら、突然女性から電話がありました
『今日これから行きたいだけど・・・』
「すいません、今日は予約でいっぱいなんですよ・・・」
『どうしても、今日でないとダメなの・・・』
「・・・わかりました・・・なんとかします。」
やってきた女性は医者を伴い、酸素吸入器を付けていました。
シャンプーしても頭をゴシゴシすると痛いので、そっと髪を撫でるしかできなかったそうです。
椅子に座ってカットが始まりましたが、女性はずっと眠っていたそうです。
フイに目覚め、酸素吸入器を外し、囁くような小声で彼女にこう言いました。
「私ね・・・・もうすぐなのよ・・・」
それを聞いた瞬間、彼女は涙が溢れでて止まらなくなったそうです。
女性は髪を綺麗にした後、ホスピスに入院されました。
最後の美容院だったのです。
外出許可をもらい、命がけで医者同伴でキレイにしてもらいに来たのです。
本来、髪などかまっていられない状況だったはず。
最寄りの美容院で済ますのが普通でしょう。
「・・・最後の美容師に、私を指名してくれたの・・・」
聞いてるうちに涙があふれてきました。
高橋さんはこの一件で、後悔しないように生きねばならないと思ったそうです。
「私やっぱりね・・・独立するって決めました。
ようやく決心ついたの。」
私は黙ってうなずきました。
女性が背中を押したんですね。
”生きてるうちが花なのよ”
私は、女性が高橋さんにそう言いに来た気がするのです。